2004-12-02 | 飴色の時間と記憶の彼方

2004-12-02

きっかけ。
僕が声をかけたわけである。
彼女は焼きたてのクロワッサンとおいしいコーヒーで有名なカフェで働いている。
「昨日、『ゴーシュ』で飲んでいたでしょう?」
「飲みすぎちゃって、ふらふらです」
「ビールを飲んでいたような」
「わたし見かけによらずビール派なんです」
彼女はそう笑った。
これが最初に交わした言葉。

数週間が過ぎた。
「最近は飲みに出てるの?」
「ううん。家でたしなむくらい」
そして
「是非今度いっしょに」
彼女はそう笑った。
店のロゴが入ったメモにお互い連絡先を記して交換した。
ほぼ毎朝 顔を合わせているのに今まで名前すら知らなかった。
翌日、二人で食事をした。
彼女は結婚していて自主規制の門限が22時だった。

気になっている人との接点ができること。
コーヒーを炒っている香ばしい空気を吸い込む気分だ。

「今度 植物園に行きましょうか?」
「冬だよ?」
「寒くても背筋をピンとして、凛としている木々を見るの」

彼女が一層素敵に思えた。


著者: 片岡 義男
タイトル: アール・グレイから始まる日
著者: 片岡 義男