暗闇の息づかい つづき
彼に支配されることが快感だった。
見えない、聞こえない、動けない状態。
わたしはいつもより多く濡らしている。
それは触れないでもわかる。
両手が拘束されているので触れられないのだし。
何分たったのだろう。
何十分なのか。
いやほんの数分に違いないが時間の経過が冷静に認識できない。
音楽に曲があって、始まりがあって終わりがあれば、曲数を数えられる。
快楽を求める直前の暗闇の中をわたしはただよっている。
まだ彼は触れてこない。
服を着たまま、この体勢のまま。
熱い。
暖かい血が、体中をかけめぐり、意識してしまう部分を熱くする。
第三者に見られているような感覚。
この、今の、わたしの姿が映像として脳裏に浮かぶ。
いつもの服を着たままなのに。
こんな姿で。
頭のてっぺんからひどく濡れてしまっている部分まで、
一本の糸がピンと張っていて、
その糸が短くなっていく。
熱く、痺れる。
背筋を反らすと痺れが強くなる。
その痺れが気持ちよくて大きく背中を反らし続けた。
腰が上に引き上げられるようだ。
彼がわたしの下着に手をかけたとき、
わたしは絶頂に達してしまった。
見えない、聞こえない、動けない状態。
わたしはいつもより多く濡らしている。
それは触れないでもわかる。
両手が拘束されているので触れられないのだし。
何分たったのだろう。
何十分なのか。
いやほんの数分に違いないが時間の経過が冷静に認識できない。
音楽に曲があって、始まりがあって終わりがあれば、曲数を数えられる。
快楽を求める直前の暗闇の中をわたしはただよっている。
まだ彼は触れてこない。
服を着たまま、この体勢のまま。
熱い。
暖かい血が、体中をかけめぐり、意識してしまう部分を熱くする。
第三者に見られているような感覚。
この、今の、わたしの姿が映像として脳裏に浮かぶ。
いつもの服を着たままなのに。
こんな姿で。
頭のてっぺんからひどく濡れてしまっている部分まで、
一本の糸がピンと張っていて、
その糸が短くなっていく。
熱く、痺れる。
背筋を反らすと痺れが強くなる。
その痺れが気持ちよくて大きく背中を反らし続けた。
腰が上に引き上げられるようだ。
彼がわたしの下着に手をかけたとき、
わたしは絶頂に達してしまった。
暗闇の息づかい
眼鏡は外させた。
ゆっくりと髪を後ろにたばねるようにして、アイマスクできつく、しっかりと目隠しをした。
落ち着いた紺色の柔らかな素材のワンピースは着たままである。
彼女は息を殺している。
両手を後ろ手にしてバスローブの紐できちっと縛り上げ、手の自由を奪った。
床に膝をつき、上半身をベッドにあずける格好である。
彼女の口元から微笑みが消えた。
耳がすっぽりと入るような大きいヘッドホンをつけた。
ミドルテンポの重い、深いリズムのシークェンスのような音楽を延々と聴かせる。
視覚、聴覚を奪い、両手を拘束されているのである。
ゆっくりとワンピースの裾をたくしあげる。
蒼白い血管が浮き出ているような透き通った肢があらわになる。
肢を開かせて、腰を突き出させる。
彼女が嗚咽のような小さく深いため息をついた。
ゆっくりと髪を後ろにたばねるようにして、アイマスクできつく、しっかりと目隠しをした。
落ち着いた紺色の柔らかな素材のワンピースは着たままである。
彼女は息を殺している。
両手を後ろ手にしてバスローブの紐できちっと縛り上げ、手の自由を奪った。
床に膝をつき、上半身をベッドにあずける格好である。
彼女の口元から微笑みが消えた。
耳がすっぽりと入るような大きいヘッドホンをつけた。
ミドルテンポの重い、深いリズムのシークェンスのような音楽を延々と聴かせる。
視覚、聴覚を奪い、両手を拘束されているのである。
ゆっくりとワンピースの裾をたくしあげる。
蒼白い血管が浮き出ているような透き通った肢があらわになる。
肢を開かせて、腰を突き出させる。
彼女が嗚咽のような小さく深いため息をついた。
2004-12-02
きっかけ。
僕が声をかけたわけである。
彼女は焼きたてのクロワッサンとおいしいコーヒーで有名なカフェで働いている。
「昨日、『ゴーシュ』で飲んでいたでしょう?」
「飲みすぎちゃって、ふらふらです」
「ビールを飲んでいたような」
「わたし見かけによらずビール派なんです」
彼女はそう笑った。
これが最初に交わした言葉。
数週間が過ぎた。
「最近は飲みに出てるの?」
「ううん。家でたしなむくらい」
そして
「是非今度いっしょに」
彼女はそう笑った。
店のロゴが入ったメモにお互い連絡先を記して交換した。
ほぼ毎朝 顔を合わせているのに今まで名前すら知らなかった。
翌日、二人で食事をした。
彼女は結婚していて自主規制の門限が22時だった。
気になっている人との接点ができること。
コーヒーを炒っている香ばしい空気を吸い込む気分だ。
「今度 植物園に行きましょうか?」
「冬だよ?」
「寒くても背筋をピンとして、凛としている木々を見るの」
彼女が一層素敵に思えた。
著者: 片岡 義男
タイトル: アール・グレイから始まる日
著者: 片岡 義男
僕が声をかけたわけである。
彼女は焼きたてのクロワッサンとおいしいコーヒーで有名なカフェで働いている。
「昨日、『ゴーシュ』で飲んでいたでしょう?」
「飲みすぎちゃって、ふらふらです」
「ビールを飲んでいたような」
「わたし見かけによらずビール派なんです」
彼女はそう笑った。
これが最初に交わした言葉。
数週間が過ぎた。
「最近は飲みに出てるの?」
「ううん。家でたしなむくらい」
そして
「是非今度いっしょに」
彼女はそう笑った。
店のロゴが入ったメモにお互い連絡先を記して交換した。
ほぼ毎朝 顔を合わせているのに今まで名前すら知らなかった。
翌日、二人で食事をした。
彼女は結婚していて自主規制の門限が22時だった。
気になっている人との接点ができること。
コーヒーを炒っている香ばしい空気を吸い込む気分だ。
「今度 植物園に行きましょうか?」
「冬だよ?」
「寒くても背筋をピンとして、凛としている木々を見るの」
彼女が一層素敵に思えた。
著者: 片岡 義男
タイトル: アール・グレイから始まる日
著者: 片岡 義男
スニーク スネーク
スニーク プリヴュー
映画の試写会、厳密には 予告なしの試写会 のことである。
スニーク sneak : こっそり持ち出す とか こっそり忍び寄る の意
プレヴュー preview : 試写
sneak preview という文字はAFM(American Film Festival )という米国での
フィルムマーケット(配給権利の売買の見本市のようなもの)でよく目にした。
このとき sneak を スネーク(snake 蛇)と ずいぶんの間 読み間違えていた。
蛇と試写。。。。するどい目つきで見よ! くらいの意味なのかな、と思っていた。
sneak にせよ snake にせよ「大っぴら」という意味のほぼ反対の雰囲気であると解釈する。
そこで『6月の蛇』である。
物語は、電話相談室で働く人妻りん子が、自慰行為をストーカーに隠し撮りされ、そのストーカーに脅されながら行う行為で自らを解放していく…、というような話である。
こっそりと(sneak) 蛇のように(snake)見る(試写) というのは スリルがある。
もうすぐ12月である。
映画の試写会、厳密には 予告なしの試写会 のことである。
スニーク sneak : こっそり持ち出す とか こっそり忍び寄る の意
プレヴュー preview : 試写
sneak preview という文字はAFM(American Film Festival )という米国での
フィルムマーケット(配給権利の売買の見本市のようなもの)でよく目にした。
このとき sneak を スネーク(snake 蛇)と ずいぶんの間 読み間違えていた。
蛇と試写。。。。するどい目つきで見よ! くらいの意味なのかな、と思っていた。
sneak にせよ snake にせよ「大っぴら」という意味のほぼ反対の雰囲気であると解釈する。
そこで『6月の蛇』である。
物語は、電話相談室で働く人妻りん子が、自慰行為をストーカーに隠し撮りされ、そのストーカーに脅されながら行う行為で自らを解放していく…、というような話である。
こっそりと(sneak) 蛇のように(snake)見る(試写) というのは スリルがある。
もうすぐ12月である。
コピ・ルアック
宝石の名前ではない。
さて、何の名前でしょう。
化粧品のようにも響きます。
東欧あたりの。。。
答えはコーヒーの銘柄。
かつてインドネシアのコーヒー農園で、
収穫されるはずの実がルアックというイタチに食べられてしまった。
仕方なしに彼らが残した糞から豆を取り出し洗浄し出荷したところ、
そのコーヒーが時の貴族たちに絶賛を浴びた。
完熟した極上の実のみを食べるルアックの胃の中でさらに熟成される。
偶然の産物であるこのコーヒーは現在、野生のルアックの現象に伴い、
年間で数百kgしか生産できない希少なものとなっている。
晩秋の東京の夜景を見下ろしながら。
ルアックの糞の中から仕方なしに実を取り出している、
コピ・ルアックの最初の収穫者の表情を思い浮かべるのである。
さて、何の名前でしょう。
化粧品のようにも響きます。
東欧あたりの。。。
答えはコーヒーの銘柄。
かつてインドネシアのコーヒー農園で、
収穫されるはずの実がルアックというイタチに食べられてしまった。
仕方なしに彼らが残した糞から豆を取り出し洗浄し出荷したところ、
そのコーヒーが時の貴族たちに絶賛を浴びた。
完熟した極上の実のみを食べるルアックの胃の中でさらに熟成される。
偶然の産物であるこのコーヒーは現在、野生のルアックの現象に伴い、
年間で数百kgしか生産できない希少なものとなっている。
晩秋の東京の夜景を見下ろしながら。
ルアックの糞の中から仕方なしに実を取り出している、
コピ・ルアックの最初の収穫者の表情を思い浮かべるのである。